スカイブルーのトレジャーハンター番外編
          だから彼女は力を欲す



 私は桜野太陽。特技はあんまり無いけど、お習字が大好き。先生にはいつも怒られてばっかりだけど、でも書いていると凄く楽しいの。
 妹のあんこはお習字は嫌いみたい。でも、勉強が凄く出来るって皆言ってる。
 でもいいの。ママが言ってたもん。私にはビボウがあるんだって。一体何の事だか、さっぱりわかんないけど。

 そんなある日。
 私は教室で静かに読書をしていた。題名はインディ・ジョーンズだった。私も考古学者になれたらいいのになって、そう思いながら読んでた。
 そんな私に誰かが言った。
「おい、桜野」
 誰かと思って顔を上げたら、クラスのガキ大将だった。いつも誰かをいじめてて、私は絶対に近寄らないようにしていたの。だから心臓が止まっちゃいそうなほどびっくりして怖かった。
 彼は私の手から本をひったくった。
 怖くて私は縮み上がる。
「……何?」
「お前は今日から俺の女だ」
「え?」
 何のことなのか全然分からなかった。正直言って怖かったし、私は早く彼が私から離れてくれないかなってそればっかり考えていたし……。
「おい、きいてんのか?」
 彼が怒鳴る。
 私はとっさに
「きゃっ」
と短く悲鳴をあげる。
 彼は私の手を掴むと、真っ直ぐ私の顔を覗き込む。キスされるって、そう思ったら怖くて、私は顔を背けて叫んだ。
「放してっ!」
 その声で、廊下を歩いていた先生が私に気づいてくれた。怖くて泣くことしか出来なかった私を見て、先生は彼に言ったの。
「無理矢理はいけないよ」
 彼がそれくらいで分かるとは到底思えなかったけど、私はとりあえず安心して泣き止んだ。ガタガタと酷く震える私を、先生は安心させるようにと優しく撫でた。怖くて仕方がなかったんだけど。

 それからもずっと、彼は私に付きまとうようになった。理由は
「桜野は俺の女だから」
だった。そんなの、私は認めてもいないのに。
 私の友達は皆、彼が怖くて離れていった。いつしか一人ぼっちになっていた私は、彼を酷く恨むことしか出来なくて、弱い自分を慰めることしか出来なかった。
 よく晴れた、夏のある日だった。
 彼はまた私に言った。
「桜野、好きだ」
「私は嫌いなの」
「照れるなって」
 しつこく私に言いつづける彼を見ているとなんだかいらいらしてきて、私は深呼吸を繰り返すしかなかった。
 彼は私の手を引っ張った。そしてまた顔を近寄せる。
 正直言って気持ちが悪かった。しつこくてむかつくし、いらいらする。でも私は女の子だから、弱虫だから……。
 どうして私は女なの? 私だって男になれる筈。弱虫なんて卒業できるに決まってる。私は弱いんじゃない。はっきり、強く言わないから弱虫になっちゃうだけ。そうだ私……ううん、オレは強いんだ。弱虫の太陽ちゃんなんかじゃない。オレは無敵の桜野太陽だ。
「嫌だって言ってんじゃねぇかっ!」
 オレは彼を突き飛ばすと、しりもちをついて呆然としてるヤツに言った。
「ボケが、あれだけ言ってもわかんねぇのかよっ!!」
「さ……桜野?」
「死にたくなけりゃこれ以上オレに近寄んじゃねぇっ。どうなるか分かってんだろうな、ああ?」
 彼はあんぐりと口をあけたまま、オレを見つめていた。
「そうよ、太陽ちゃんの気持ちがわかったでしょう。もう無理矢理やっちゃだめよ」
 気が付いてやってきた先生がヤツにそう言って笑った。
 オレは自分の言ったことが信じられなかった。そうだ、もうオレは弱虫じゃねぇ。俺は強い。強いんだ。無敵の桜野太陽なんだ。

 オレはそれ以来、男の友達しかいない。転校が多いから続いたことなんて全く無いけど、でもそれなりに楽しかった。この生活だって悪くねぇ。心の其処からそう思ったんだぜ。
 弱虫の太陽ちゃんだって悪くはなかったかもな。でも、無敵の桜野太陽でいるのはとても楽しくて気楽で、何より好きだ。
 オレはオレであることを誇りに思う。あのガキ大将のヤローにだって、気づかせてくれてありがとうって伝えたって構わないと思った。きっと、オレのことなんか忘れてるだろうけどさ☆


Fine.





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