誰も居ない夜







私は一人、膝を抱えていた。

冷たい夜風が吹き抜けて行く。

漆黒の夜に屋根上。

誰もいない、月夜だった。

私は一人、月を見上げていた。

細い三日月だった。

小さくてすぐに雲に隠れてしまうような、小さな月だった。

私はそんな月を見ながら、黙って空を見ていた。


何処かから優しいギターの音色が聞こえてきて、私は辺りを見回した。

少し離れた所に、ギターを抱えた人が居た。

黒いコートに金色の髪の男の人だった。

とても優しい歌だった。

声は澄み切っていて、大きくて、強い、空のような声だった。


その人は私に優しく言った。

「貴方は何をしているのだ?」

私はなにも言えなかった。

何も答えられるような事が無かった。

ただ黙って頷いているだけだった。


ーーお前には翼がある

  なぜ羽撃かないのだ?


私は黙り込む。

闇は私を包み込む。



その時だった。



男は大声を張り上げて歌った。

何処まででも声は響く。

私はその声に耳を傾けて、そっと目を閉じた。

不意に声は聞こえなくなった。

目を開けたとき、男は何処にもいなくなっていた。

その痕跡は全くない。

私の見間違いだったのかもしれない。

でも声は確かに聞こえていた。

私は黙って顔をあげた。

ぽっかりと三日月が浮かんでいて、優しく輝いている。

私は深呼吸をして、男の歌った歌を歌い始めた。

其処には誰もいなかった。

目を閉じて息を吸い込んだ。

あの声が聞こえた。

目を開けてみても誰もいない。



私は歌った。

私と見えない男と二人だけが其処にいた。

誰もいない夜に、私は二人で声を張り上げて歌っていた。





     Fine.




















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