エピローグ




俺はふよふよと浮いていた。
だんだん自分から色がなくなり、ぼんやりと霞んでいくのが分かる。キラキラと体が輝き始めたけど、意識ははっきりとしていた。手の感覚もちゃんとある。ただ、ゆっくりと空へ引っ張り上げられる変な感覚がある。
だんだん遠離って行くけど、スウェルはレオンに抱きしめられて幸せそうに微笑んでいる。お互い幸せそうな顔をして、抱きしめあっている。
これでいいんだ。スウェルはレオンが大切にしてくれる。何も心配する事はない。そう思うと、少しだけ悔しいような、嬉しいような気持ちになった。
“ベルモット”で請け負った殺しの事を思えば、俺は天国に行けないかもしれない。でも、何でも屋だった自分の人生に、もう何の悔いもない。
仲間達が待っているだろう、その世界へ俺は行く。其処がどんな場所だったとしても、俺は精一杯生きるだろう。何されようが、俺は胸を張って笑える筈だ。
もし、その世界で神様に会って
「お前は地獄の業火で焼かれるといい」
なんて言い出したら、俺ははっきりと言うだろう。
「だったらどうしてあんな世界を作った? 何でゲート・オブ・ヘルなんて街が出来る前にどうにかしようと思わなかった? 俺は確かに人を殺したよ。でも俺は生きたかった。可愛い妹分を幸せにする為に生きたかった。生きる為には何でも屋をやっていくしかなかった。俺なんかより、そういう人間を増やしてしまったアンタが、地獄の業火に焼かれるべきなんじゃねぇのか?」
と。きっと俺は胸を張って言える。その自信が今はある。
そして、何度裏切られようと俺は仲間を守って言うだろう。
「そんなに焼きたきゃ、俺だけを焼け。今後一切、何でも屋や暗殺者を焼くな」
と。
もし天国に行けたとしたら、俺が望むの一つだけだ。スウェルの様子がいつでも分かりますように。贅沢を言っていいのなら、仲間達とまた会えますように言うと思う。

俺は銀色の輝きに包まれた。
もう何も見えない。何も感じない。でも、何も怖くはない。ただ、心が暖かかった。ふうっと気が遠くなっていくけど、俺は必死で目を開けスウェルの姿を探した。
誰よりも大切な妹分の優しい笑顔を最後に目に焼き付けておこうとは思ったけど、もう何も見えなかった。
記憶の中で微笑む金色の巻き毛の少女は、茶色の巻き毛の女の子に変わった。悩んで、人を好きになって、フラれて、立ち直って、傷つけられたりして泣いたけど、強く成長した。
そんなスウェルは俺の事を一生背負って生きていくだろう。どん底まで突き落とされても、きっとレオンがスウェルに手を差し出して引っ張り上げてくれるだろう。
だから笑おうと、俺は空がある筈の方向を見た。
何も見えなかった。
でも輝きは増すばかり。キラキラの輝きが、いつしかギラギラに変わっていた。自分の姿も見えないほど、その輝きは強かった。
俺は笑った。
でも声は聞こえない。風を切るような音だけは聞こえてくるのに、自分の声は何一つ聞こえなかった。それでも俺は声を張り上げた。
自分の体を抱きしめた。
でも何も感じられなかった。不思議とそれなのに怖くはなかった。逆に少しだけ心地いいと思った。柔らかい風を感じながら、全てに身を任せた。
そして俺は意識を失った。
最後に思い出したのはスラム街で泣いていたスウェルに手を差し出した自分だった。スウェルに小さな恋をしていた、汚らしい何でも屋の自分だった。



       Fine.








  ☆あとがき☆

ああ、やっと連載終了です♪
ほっとしたと同時に、コレを書いていた当時の純粋な「面白い」を思い出しました。
書きながらいやになる事もあったけれど、楽しくて仕方がなかった、そんな「面白い」です。
×ブラックスピリッツの暗殺者達×は、中学生だった私がたまたま社会の教科書で見つけた子供兵士をモデルに書いた小説でした。
もう何度も書き直した事のある、大好きなキャラクター達があなたの心に残ってくれていたら嬉しいです。
この小説を書くにあたって
「子供兵士、戦争の反対」
をテーマにしましたが、ちゃんと伝わったでしょうか?
伝わっていたらうれしいなぁ。
  どうか、
  スウェルやレオン、
  ブラックスピリッツの暗殺者達みたいな
   悲しい仕事をしている子供達がこの世界からいなくなりますように……




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